長野県下諏訪町にある移住促進施設「ホシスメバ」に、簡易宿泊ができるドミトリールームを製作した。三人が泊まれるユニットを男女一部屋づつ用意し、短期の移住体験者向けに運用する計画だ。
ホシスメバは市街地北部の丘の上に位置し、周囲に建物が少なく諏訪湖に向かって視界が開けている。一方で、気候状態を直に受けやすく、夏は暑く、冬は寒いという、住環境としては恵まれていない敷地である。
諏訪地方には、この稀有な風土に対する暮らしの工夫がたくさん残っている。諏訪伝統の住居形式「建てぐるみ」もその一つだ。母屋が蔵を抱え込むことで蔵内の温度を安定させ、室温の日較差を小さくする効果がある。また、母屋との気密差で空気を交換させ、蔵内の健康状態を保っている。
今回のドミトリーはこの建てぐるみの知恵を借りてデザインした。室内から諏訪湖へ向かって広がる眺望を邪魔しないように、コンクリートの外壁の室内に、断熱された部屋を設ける。間口を低く、奥を高くすることで、円窓から重力換気させ、個室内部の空気の健康状態を保っている。 現代住宅の基本的なつくり方をするならば、隙間をなくし、気密を取り、外部環境との関係を完全に遮断することで、内部環境を安定させる。しかし、この場所の空気を肌に感じながら過ごすことが、移住希望者にとって良い空間ではないだろうか。今回の設計では外部環境と切り離さず、レイヤーを設けることで環境のムラをつくり、下諏訪の環境を体感しながらも快適に過ごせる部屋にした。
date | 2020.11 |
client | 長野県下諏訪町 Shimosuwa Town Government |
location | 長野県下諏訪町 Shimosuwa, Nagano |