台東区根津の藍染大通りから一本抜けた路地にある新築アパートの1階テナントとして飲食店の設計依頼がきた。店主は根津で生まれ育ち、神田で江戸東京野菜を使った割烹料理屋を営んでいた。コロナを機に地元の根津に移転しようという計画の中で声をかけて頂いた。
店主の要望は「家っぽいお店にしたい」というものだった。
「東京で土着的なものをつくる」
私も店主と同じく、東京出身者である。東京では地場にある様々な文脈が複雑化していて、日頃土着的なものをなかなか得難いと感じる。一方で店主は、東京産の食材を使ったり、地元住民の居場所作りであったり、自然環境への配慮であったりと、東京の複雑なネットワークの中で「土着的な店作り」を試みている。
そこで私もこの場所をとりまくものたちを具に拾い上げ、土着的な店舗の設計を心掛けることで「家らしさ」を目指した。
・大きな食卓
店舗中央に”大きな食卓”として、カウンターキッチンを設えた。キッチン空間は店主一人でオペレーションすることもあり、打合せを重ねながら、有効幅520mmまで縮め、カウンター下に厨房機器を収めた。客席は体が店主に向くよう、また、客同士の目が合いやすいように、曲線形状で中央に向かう劇場型にした。
厨房と客席の床と天井レベルを調整しながら、枕木なしでも違和感がないように設計することで、大きな一枚の天板で仕上げることができた。
カウンターの幕板には、杉の浮造りを天然藍で塗装したものを使用した。かつて敷地の脇には藍染川という川が流れ、現在も藍染町と呼ばれるエリアであることに因んでいる。また、この幕板は店主や町の人と共にWSで制作した。浮造りも現在では電動工具を用いることがほとんどであるが、蜜蝋を馴染ませながら藁束で削りだすという伝統工法で行った。
・天然素材・廃材
今回の設計では多くの天然素材を使っている。普段から私の設計は自然由来のものでつくることが多いが、土着的な作りが家らしさに繋がるということ、また、店主の食の創り方が材や文化のネットワークを意識したものであることから、普段以上に使う材料を意識して設計した。客席の壁面は東京産の土と藁を使用した土壁で仕上げ、厨房の壁と天井は珪藻土で仕上げた。客席から正面(厨房側)に向かって色が明るくなるように、土の種類を変えることで調整した。カフェカウンターや造作家具は柿渋塗装に蜜蝋で仕上げている。柿渋は呼吸することで色が経年変化する。木材の呼吸を妨げないよう、保護剤にはウレタンなどの化学系のものを使わず、天然の蜜蝋を塗り込んでいる。保護性能としては化学系塗料に劣るものの、重ねて塗り込むことが可能で、定期的に手入れをする中で、ものの成長を感じることができる。
客席から見て正面の壁に架けられている欄間は、根津の隣町・台東区池之端で95年間営業していた六龍鉱泉のもので、閉業解体の際に譲っていただいた。その他にも照明や、蓄音器、火鉢など、長きに渡って使われていたものが店のいたる所に設えられ、全体の雰囲気が整えられている。
家らしさには、愛着が大事である。
作り上げられた空間を消費するのではなく、過程を知り、ストーリーを共にすることで愛着は湧いてくる。
この建築もまた、思い出を蓄えながら、みんなの家として根津のまちで歳を重ねていってほしい。
date | 2022.02 |
client | Bridge Wellness株式会社 Bridge Wellness, inc. |
location | 東京都文京区 Bunkyo, Tokyo |